引用ニュースについて
先日、日本の代表的な研究機関である理化学研究所(理研)で、10年を超える有期雇用を認めない「10年ルール」により、97人の研究者や技術職員が雇い止めになったことが報告されました。大学や研究機関では数千人が雇い止めになる可能性が指摘されていますが、個別の機関における具体的な数字が公にされたのは初めてのことです。
「10年ルール」の背景と問題点
この「10年ルール」は、2013年に施行された改正労働契約法により、通算10年を超えた有期雇用の研究者が無期雇用への転換を求められるようになったことに由来します。しかし、人件費削減を目指す組織では、10年を超える前に契約を打ち切るケースが多くなっています。これは有期雇用労働者の権利保護のための法律が、逆に彼らの雇用機会を奪ってしまうという皮肉な結果を招いています。
理研の場合、研究系の職員の約8割が有期雇用で、10年以上の雇用をしない方針を2016年に定めました。これは有期雇用者の権利を保護するための法律の下で、一定の期間を超えると雇用の保証を受けられなくなるという状況を生んでしまいました。
影響と未来
研究の世界では、長期間にわたる研究が求められ、有期雇用の不安定さは研究者の生活を困難にし、さらには研究成果そのものに影響を及ぼす可能性があります。さらに、「10年ルール」により組織がチームリーダーを雇い止めにすると、その下で働く研究者たちも影響を受け、結果として研究チームが解体されるケースも出てきています。
問題に対する解決策
この問題に対する解決策の一つは、大学や研究機関が長期的な視点での人材管理を行うことです。10年以上の研究者に対して無期雇用を認めることで、彼らのキャリアの安定を図るとともに、研究の長期的な進展を支えることが可能です。無期雇用を避けるために有期契約を打ち切るという短期的な視点は、最終的には組織自体の研究力を弱体化させるリスクを孕んでいます。
また、国や行政も、労働者の権利を保護するための法律が、逆に雇用の不安定化を引き起こす可能性があることを認識し、適切な対策を講じるべきです。例えば、一定期間を超えると無期雇用を認めることを義務付ける「10年ルール」を見直すなどの政策変更が求められます。
未来への懸念と希望
「10年ルール」による雇い止めは、一部の研究者だけでなく、科学研究の未来全体に対する深刻な脅威となっています。しかし、この問題に真剣に取り組むことで、より持続可能で安定した研究環境を構築するチャンスもあります。研究者の労働権を守りつつ、研究の持続性と進展を確保するためのバランスを見つけることが、今後の課題となるでしょう。
まとめ
理化学研究所の「10年ルール」による雇い止め問題は、研究の未来と労働者の権利の間で生じる葛藤を象徴しています。研究者のキャリア安定と研究の持続性を確保するためには、組織と行政の対策が求められます。法律が意図せぬ結果を生んでしまう場合、法律自体の見直しが必要であるという教訓を、この問題から学ぶことができます。